≫NOVEL

Be quiet




(何、コイツ…何でこんなに強いのよ…)


普段ならこのあたりで攻撃をやめさせるのだが、この相手は朱雀にその隙さえ与えないほど絶え間無い攻撃をしてくる。
殺すつもりでかかって来いと言ったのがまずかったか。
本当に殺すつもりのようだ。
相手の剣撃を防いでいる両腕は既に痺れて、もうすぐ使い物にならなくなってきているし、回復も追い付かない。
相手がトドメを刺さんと剣を振りあげる。
この時、朱雀は初めて「死ぬかもしれない」という恐怖を覚えた。

(あーぁ…)


こんなことならアイツに謝っておくんだった…


「青龍…」


……


………?


いつまで経ってもとどめの一撃がやってこない。

怪訝に思いながら閉じていた目をゆっくりと開くと、見知った後ろ姿が見える。

青い髪。

青龍だった。





なんでこんな所に…と言うより前に、ある事に朱雀は気付いた。
青龍の背には血にまみれた剣が生えていたのだ。
正確には剣が彼女を貫いてたのだが、朱雀にはそう見えた。
「呼んだかしら?」
本人は平気そうな顔をしているが、朱雀は血の気が引いて動けない。
声も出ない。

「誰だ、アンタ。邪魔すんじゃねぇよ」

「四天王が一、青龍。どうせ全員倒さなければならないのだから別に構わないでしょう」
「はっ、じゃあ望み通りまとめて殺してやるよッ」
その男…先程まで朱雀を殺そうとしていた人間は、いつも通りの淡々とした青龍の口調が気に障ったらしく刺さっていた剣を引き抜き再び、今度は青龍に攻撃を開始し た。

連続に次ぐ連続攻撃。

流石にCARDINAL GATEに辿り着き、朱雀を追い込んだ猛者だけはある。
それらの剣撃を青龍は避けるのではなく、防いでいる。
先程受けた傷のせいか、はたまた動きにくそうな服装のせいか。
動きにくいと言えば青龍がいつも連れている龍…とても動きにくそうで見ているこちらがイライラしそうなくらいである。

(あれ…)
朱雀はある違和感を覚えた。
いつもと大きく何かが違う…ような気がする。



男の攻撃はまだまだ続く。
規則的に攻撃しているかと思えば不意に不規則にしてみたり、ねちっこい攻撃だ。
恐らく性格もそんな感じなのだろう。

(……ぁ)

あーそうだ、判った。龍だよ龍。何で今まで気付かなかったんだろう馬鹿みたい。

前述した、青龍が連れている龍がいなかったのだ。
戦闘時には必ずいる筈なのに。
むしろ攻撃の主力と言えるあの龍がいないのにどうやって戦うのだろうか。
まさかそのせいで青龍は攻撃に転じることができないのではないか。
先程受けた傷も気にかかる。
手助けしたいのは山々だが、体力の消耗が激しく立つことさえままならない。
「朱雀、大丈夫か?」
常に背後から現れる男、白虎。
びっくりするからやめて欲しいと言いたいのだがそれ所じゃない。
「青龍が…」
「あー…それなら大丈夫だ」
「あれのどこが大丈夫なのよ!龍だっていないのに…」
ふむ、と白虎は珍しく真剣な顔をしてしばらく考え込んだ。

ややあって。

「朱雀に一つ、教えてやるよ」
「え…」
「青龍の龍がいない時はな…」



本気モードってことだ。



四天王だか何だか知らないが、噂に聞くほど大したことないじゃないか。
少し前の朱雀といい、この青龍といいさっきから何もしてこない。
まあ何も出来ないようにしているのはこちらなのだが。
このまま押し切ってしまおう。
相手は攻撃を防ぐので手一杯だ。余裕ヨユー…



手応えが、変わった。

「なっ」

青龍とかいう女が防御に使っていた両腕は下げられ、己の剣は今まで相手にしていたものとは別のものを捕らえていた。
剣は女の左肩に食い込んでいる。慌てて男は態勢を立て直そうと剣を肩から引き抜いた。
遅れて血が、よく振った後に開詮した炭酸飲料のようにプシュと音を立てて噴き出した。
しかし青龍は眉一つ動かさない。
その様子に男は、一瞬、怯んでしまった。
本当にほんの、一瞬。
だが、それだけで充分だったのだ。


自分の前にいた相手がかき消えた。
男は辺りを見回す。
背後か、いやいない。
では一体何処へ?

「おーい。ほら、上だよ上」
見知らぬ、白髪で長身の男が上を指差している。
促されるままに上を見る。
「上…?」
男と同じく空を茫然と眺めているのが約一名。
朱雀は不思議そうに視線を空へと向けていた。



「り、龍?」

男は目を白黒させて言った。
黒味がかった青い鱗がびっしりと長い尻尾の先までを覆っていて、白く大きな角は鹿を思わせる。
四本の脚の先からは鈎爪が生えていて、こんなモノ喰らったらとても痛そうだ。
上空にいるために正確な大きさは判らないがそれでも大きかった。
龍は首をもたげ、天を裂くような咆哮をあげる。
開かれた両眼もまた、青だった。

「ね、ねぇ白虎。あの龍って、もしかして……」
「御明察。ありゃ青龍の…カッコつけて言うと『真の姿』ってやつさ」
端から見ているだけだというのに、皮膚はビリビリと痺れるような感覚がしていた。
それは男も同じく龍に圧倒されているらしく、動かない。
ぶっちゃけると腰を抜かしてしまったらしい。
一方この龍…青龍は、牙を剥いて男を凝視していた。
「あー、かなり怒ってるみたいだなぁ」
「…怒ってる?」
今まで青龍が笑ったことはおろか、怒った所など見たことがない。
いつも冷めていて何を考えているかよく解らない、あの青龍が。
「どうして…」
「朱雀だって俺が知らない奴にボコボコにされてたら怒るだろ?」
「うん」
「それと一緒。仲間が酷い目にあってるから青龍はご立腹な訳さ」
「じゃ…もしかして私のために…」
白虎はそれ以上何も言わなかった。



ははーん、なるほど。
身体が青い龍に変化する女、故に青龍。
そいつぁすげぇや、よし逃げよう。

敵わない。
無理だ無理無理。
敵うわけがない。
あんなのとまともにやり合ったら命がいくつあっても足りない。
よし逃げよう、抜けた腰も治った。
さあ、元気良く立ち上がって右足を前に出してDASHだ。


右足を…



無かった。

大腿部の半分から下がごっそり削ぎ取られている。
バランスを保てなくなった身体は前のめりにヘッドスライディングの要領で地面に倒れ込んだ。
摩擦で地面と接触していた皮膚の上辺がずるりと剥けた感覚がした。
良く見るとただの擦り傷だった。
痛くない。
痛くないのはその傷よりも、右の脚の痛みの方が激しかったからだ。
あの鈎爪を喰らったらとても痛そうだ。と言ったが実に痛い。
振り向けばあの龍が目前に迫っている、きっと自分を食うつもりなのだ、頭の方からボリボリと。



「お前みたいなマズそうな奴、誰が食うか」

読心術まで使えるのか四天王は。
大きな鎌を携えて自分の側に立っていたのは白虎。
「青龍は足一本で許してくれたらしいが…」
ひゅっ、と何かが空を切った。
「俺は青龍ほど優しくないんだなぁ……ってもう聞こえてないか」
暫くすると朱雀がこちらに歩いてくるのが見えた。
もっともまだ完全に回復出来ていないのか、ぐったりしているが。
「もう大丈夫…だと思う。フラフラするけど」
肩を貸すと白虎は申し出た時、朱雀はそう言ったが、
「憔悴した顔で言われても、説得力ないぞ」
「うるさいなぁ。…ねぇ…こいつ死んだの?」
文句をたれつつも朱雀は大人しく白虎の肩を借りることにした。
「うんにゃ、気絶してるだけ」
鎌は男の首、あと数ミリの所で止まっていた。
あと数ミリでこの首は放射線状に吹っ飛んでいるところだった。

私怨で殺してしまうほど、堕ちゃいないといつものように笑った白虎は、ふとあることに気付き、今度はニヤリと笑みを閃かせた。 「朱雀あっち見てみな、いいもん見れるぜ」
あっち?いいもの?怪訝そうに朱雀は白虎の指差す方向を見た。
「!!」
そこには青龍がいた。既に元の姿に戻ってはあるが、その…なんだ、生まれたままの姿なのだ。
真っ白な肌は処女雪のようで、長身かつバランスの良い体のラインは女性である自分でさえ見惚れてしまう。
どうやら青龍の傷は大したことは無かったようだ。
途端、朱雀は青龍目掛けて飛んでいった。




青龍はぼうっと空を見上げる。
肉体を龍に変化させた後に感じる、性的興奮にも似た開放感は既に失せてしまった。
そよぐ風が熱くなった体に心地よい。
深く息を吸い込み同じ様に吐き出す。
と…
腹部を鈍い衝撃が襲う。
誰かに抱き付かれた。
下を見る抱き付いた犯人と目が合った。
朱雀だった。
「馬鹿ッ」
開口一番、馬鹿。
しかも一回ではない。
「馬鹿馬鹿馬鹿…」
流石の青龍も当惑の表情。
「なんで助けたのよッ」
やはりプライドの高い彼女の戦いに手を出してしまった事はまずかったようで。
しかし青龍はこれまたいつもの調子で「別に私が勝手にしたことよ」とか言っちゃうもんだから、火に油…かと思いきや。
「馬鹿…死んじゃったらどうすんのよ…!」
良く見れば…朱雀の目が潤んでいる。
「泣いてるのかしら」
「ちがっ、泣いてなんか…」め、目にゴミが入っただけなんだから!ゴミが…」
完璧に泣いていた。
バレバレだ。声も少し震えている。
暫くするとそれは鳴咽に変わっていて、朱雀は何も言えずにそのままの状態でいた。


「もしもしお二人さん?そろそろ…」
少し離れた場所から見ていた白虎が話しかけようとすると、青龍は手を彼の前に出して制止した。
人差し指を立ててすっと口の前に持ってくる、人を黙らせる特有の仕草だ。
そして青龍は微笑んだ、ような気がした。


end...



あとがき
やっと書き上がりました〜
意味も無くズルズル長い話となってしましました。
朱雀が青龍のことが気になり始める話が書けてよかったです!!!



ブラウザバックでお戻りください。

 

↑PAGE TOP 
copyright (C) 2006 鍋奉行 by武御雷 All Rights reserved.